右手も左手も、同じ組立ラインで作れたかもしれない。人型ロボットAtlasの新しい手には、手の両側に親指を置く案があった。開発初期には支持を集めたという。それでもBoston Dynamicsは、この案を採らなかった。左右を共通にできる利点より、手の中で増える部品の負担が大きいと判断したからだ。

この経緯を、Atlasの動作開発責任者アルベルト・ロドリゲス氏が、10月9日公開のThe Robot Reportの取材で説明した。新しい手そのものの発表は10月1日。追加取材で見えるのは、指の本数を競う話よりも、どこを共通化すれば作りやすくなるのかという、量産をにらんだ迷いだ。

両側に親指があれば、左右別の手を用意せずに済む。しかしロドリゲス氏によれば、その案は動かす仕組みを複雑にし、動作の軸の数、費用、体積を増やしてしまった。組立ラインを一本にできても、そこで作る手が複雑になる。生産の都合だけでは決められなかった。

採用されたのは、親指を含めて4本の指を持つ手だ。同社の技術説明では、親指には4つ、ほかの指にはそれぞれ3つの動作の軸がある。たとえば道具の柄を握り、そのまま引き金を押す。強く握るだけでは足りない仕事のために、指同士を動かせる範囲を広げた。小指を加えると駆動部がさらに3つ必要になるため、それも見送っている。

代わりに共通化したのが、関節を動かす駆動部だ。新しい手には同じ型を13個使い、関節をまたぐ壊れやすいケーブルをなくした。IEEE Spectrumの10月1日付取材では、各駆動部を一つのユニットとして交換できる構造も説明されている。手全体を左右共通にする案を捨てても、中で使う部品はそろえられる。

量産と言っても、すでに大量の手を工場へ届けたわけではない。ロドリゲス氏は同じIEEEの取材で、仮に年間10万個作るなら設計の細部をどう変えるべきか検討していると述べた。10万個は生産実績でも確定した出荷計画でもなく、設計を問い直すために置いた規模だ。

この区別をすると、見栄えのよい動作実演とは別の評価軸が見えてくる。左右の種類を減らす案と、ひとつの手を簡素にする案は、必ずしも同じ方向を向かない。Atlasの選択から読み取れるのは、人に似せるかどうかだけでなく、作る工程と使い続ける負担のどちらをどこで減らすかという判断である。

その判断が現場で正しかったかは、まだ確かめる余地がある。10月9日の取材時点では、新しい手は本社で使われているが、全機体への展開も済んでいないという。部品をそろえたことで、作業の成功率や修理の負担が実際にどう変わるか。今回の説明だけで、そこまで決着したとは読めない。

SOURCESこの記事の情報源

  1. The Robot Report・Atlas開発責任者への追加インタビュー ↗ — 報道・専門媒体
  2. Boston Dynamics・新しい手の構造と設計判断 ↗ — 一次情報
  3. IEEE RAS掲載・IEEE Spectrumによる10月1日インタビュー ↗ — 報道・専門媒体