切手を買うための外出が、スマホの操作に変わる。シンガポールの郵便会社SingPostは10月8日、アプリで買ったコードを封筒に手書きする国内の手紙やはがき向け「デジタル切手」の試行を始めた。ただ、今回の仕組みで目を引くのは切手よりも、手紙を出す場所だ。
同社は9月までに、2万を超える建物へ「SingPost@MyBlock」を広げた。集合郵便受けにある返送用の投函口を使い、住民が手紙や小さな荷物を出せる仕組みだ。デジタル切手と組み合わせると、切手を買いに行く用事だけでなく、街頭の郵便ポストを探す手間も減らせる。
投函口を新設する話ではない。宛先違いの郵便などを戻すためにあった「Return Mail」の口を、発送にも使う。公式案内によれば、対象の投函口から入れた郵便物は配達員が集める。各戸が受け取るために使ってきた設備が、差し出す場所にもなる。
切手をコードに置き換える技術そのものは、世界初ではない。ドイツの郵便会社Deutsche Postは2020年12月、アプリで料金を払い、封筒やはがきにコードを書いて投函するサービスを発表している。「スマホで切手を買える」だけなら、すでに先例がある。
シンガポールの取り組みは、その後に残る移動にも手を入れている。切手の購入が自宅で済んでも、投函先が遠ければ外出は必要だ。だから購入方法と投函場所を一緒に変えると、アプリだけを導入した場合とは日常の使い勝手が違ってくる。既存の集合住宅の設備を使う点に、今回の組み合わせの面白さがある。
もちろん、住宅の投函口が郵便局の代わりになるわけではない。公式案内では、書留とSpeedpostは対象外。郵便物が口を無理なく通ることも条件で、大きな荷物や投函口をふさぐものは入れられない。対象の集合郵便受けがあるかどうかも確認が必要だ。用途を絞ったからこそ、すでにある設備で受け付けられる。
利用者の側にも、ひと手間は残る。アプリに表示されたコードを、封筒の右上へ濃い青か黒のインクではっきり書く必要がある。紙の切手を探す手間は消えても、手書きの文字を正しく読み取って配送する仕事は消えない。
試行は2027年4月6日まで。同社は利用者の意見を集め、文字認識の精度や郵便物を扱う手順を調整すると説明している。便利になったことで利用が増えるのか、作業の負担がどれだけ変わるのかは、今回の発表ではまだ示されていない。
「郵便をデジタル化する」と聞くと、紙をなくす話を想像しやすい。今回残るのは、封筒とペンと集合郵便受けだ。投函先を近づける整備は先に進んだ。そこへ手書きコードの切手を加え、買うところから投函するまでの手間を減らせるか。試行で確かめるのは、その使い勝手だ。



