米飲料ブランドのLiquid Deathが、顧客データの連携に使うLiveRampから離れる方針を示した。きっかけは広告大手Publicisによる買収の完了だ。データを守る仕組みも示されている買収だが、同社は所有者が変わることへの不信を表明した。
Publicisは11月2日、LiveRampの買収完了を発表した。3日付のMarketing Dive記事によると、Liquid Deathの代表者は利用をやめる予定だと確認した。データを広告会社の傘下に置くことへの不信を、同社のメディア・デジタルコマース責任者が表明していた。
LiveRampは、企業が持つ顧客情報を、広告媒体や小売店などのデータと結びつけるサービスだ。自社だけでは見えない購買行動を捉えたり、別の媒体でも広告を届けたりするための接続を担う。Publicisはこれを、自社のEpsilonが持つ顧客識別の仕組みと組み合わせ、広告配信や計測、AIのためのデータづくりまで提供しようとしている。
買収の強みになるのは、LiveRampがすでに持つ多くの接続先だ。ただ、利用する企業にはPublicisの顧客だけでなく、競合する広告会社や、その顧客も含まれる。接続先が多いことと、接続を任せたい相手であることは、必ずしも同じではない。
この懸念は買収完了で初めて生まれたものではない。Publicisは5月の買収合意発表から、LiveRampを中立的で、他社にも開かれたサービスとして運営すると約束していた。それでも競合のOmnicomは、もともと進めていたLiveRamp離れを前倒ししたと、5月20日のDigidayが報じている。同社には自前の顧客識別技術へ移る計画があり、すべての利用企業が同じように代替できるわけではない。
米連邦取引委員会(FTC)も、所有者が変わることで生じる利害を問題にした。PublicisがLiveRampを通じて得る競争上重要な情報を自社に有利に使ったり、競合にサービスを使いにくくしたりする恐れがある、としたのだ。これは将来の競争への懸念であり、不正利用が起きたという認定ではない。
10月19日に公表された同意命令案は、単に中立性を宣言させるものではない。LiveRampの単独サービスを差別なく提供し、その利用から得た顧客情報にPublicisがアクセスしたり利用したりしないための情報隔壁を求める。案は5年間にわたる保護を定め、独立監査も求めている。現時点では公開意見を募る段階の案だ。
Publicis自身も11月2日の発表で、データは顧客側の環境に残り、所有・管理の権限も顧客にあると強調した。広告媒体や小売店との接続をあらかじめ用意すれば、顧客ごとの契約調整やシステム連携の手間を減らせるという。使い勝手を高めながら、自社の技術だけに囲い込まない、という提案である。
今回新たに見えたのは、こうした保護策が示された後に、離脱の意向を表明する広告主が現れたことだ。Liquid Deathが個々の保護策を検討して拒否したかどうかまでは、同記事は伝えていない。競合代理店がライバルのサービスを避ける話から、広告費を払う企業自身が、データの接続先を選び直す話へ広がっている。
もっとも、同記事で個別に確認された広告主の離脱方針はLiquid Deathの1社だ。移行完了の有無、移行先、費用も同記事では伝えられていない。顧客が一斉に逃げ出しているとも、FTCの保護策が機能しないとも言えない。
Publicisが買ったのは、データをつなぐ技術だけではなかった。競合を含む多くの企業が同じ場所を利用してきた関係も、買収価値の一部だった。その関係を保つには、統合したから便利になったと説明するだけでなく、Publicisの広告代理店を選ばない顧客にも不利に扱われず使えることを、運用で示し続ける必要がある。




