会社を辞めると決めたのに、給料は出る。ただし、次の会社ではまだ働けない。働く人には一見手厚く映るこの時間が、AI企業同士の採用競争では争点になっている。

9月30日、欧州のスタートアップメディアSiftedは、英国でAI政策を担当するカニシュカ・ナラヤン氏が、競業避止条項や長い退職予告期間を見直していると報じた。改革を求める起業家や投資家の動きに応じた発言で、制度変更が決まったわけではない。

ここでは、似て見える二つの契約を分ける必要がある。競業避止条項は、退職した後に競合企業で働くことなどを制限するもの。一方、ガーデンリーブは退職予告期間の過ごし方だ。英国政府の案内では、会社が出社を求めず、自宅などで待機させる間も、通常の給与や契約上の給付は続く。まだ雇用関係にあるため、自由に次の仕事へ移れる休暇とは違う。

雇う側から見れば、研究内容や顧客情報を知る人がすぐに競合へ移るのを遅らせられる。採用する側は、本人の意思と報酬条件が合っても、働き始める日を先に延ばされる。人材をめぐる競争が、年収だけで決まらなくなる。

AIの開発では、その待ち時間にどれほどの価値があるのか。新しい会社が研究チームをそろえる途中なら、一人の入社待ちで担える仕事が変わることも考えられる。前の会社は給与を負担するが、その人が競合の開発を進める時期も遅くなる。契約期間が長いほど、資金の少ない採用側には待つ負担が重い。

もっとも、機密情報や投資した教育を守りたい企業にも理由はある。英国政府が2025年11月に出した検討資料は、期間の上限、全面禁止、所得の低い層への禁止などを比べている。2023年には前政権が3か月の上限を表明したが、この資料によれば実施には至らなかった。「英国ではすでに3か月まで」と扱うのは誤りだ。

さらに、退職後の競業制限を短くしても、退職前の予告期間が長ければ、入社を待つ時間は残る。政府の資料も、禁止に対して企業が他の契約で対応する可能性に触れている。一つの条項だけ変えれば人が動ける、という単純な改革ではない。

給与を払っている以上、不利益はないのか。それとも、本人が次の仕事を始められないこと自体が不利益なのか。英国AI業界の議論は、人材獲得の競争を年収から、キャリアの時間を誰が決めるかへ広げている。

SOURCESこの記事の情報源

  1. Sifted:UK AI minister working extremely rapidly on non-compete changes ↗ — 報道・専門媒体
  2. GOV.UK:Handing in your notice — Garden leave ↗ — 一次情報
  3. Acas:When an employee does not have to work notice ↗ — 一次情報
  4. Department for Business and Trade:Working paper on options for reform of non-compete clauses ↗ — 一次情報
  5. CMA:Response to working paper on options for reform of non-compete clauses ↗ — 一次情報