新卒で入った人たちは、会社でも指折りの社員になった。それでも、しばらく新卒は採っておらず、今後も採るつもりはない。
米メディアDigidayが9月28日に伝えた、ある広告会社経営者の発言だ。24日に開かれたイベントで、発言者を特定しない条件の下で語られた。若者が嫌いなわけではない。これまで新人に任せていた仕事をAIが担うようになり、採用する事業上の理由が弱くなった、という説明だった。
この経営者は、育成に失敗したから採用をやめたわけではない。むしろ、新人が力をつけることを知っている。それでも今ある仕事だけを数えると、採用しない判断になる。
翌29日、調査会社Gartnerもマーケティング職の育成をめぐる発表を出した。2026年1〜4月に上級リーダー1,303人を対象に実施した調査では、マーケティング部門の回答者の18%が、自動化によって一部の職務を廃止したと答えた。一方で16%は新しい職務を設け、3割近くは既存の職務を組み替えている。
18%の社員が職を失ったという数字ではない。会社が仕事の割り振りを変え始めており、その対応が削減にも新設にも分かれている、という結果だ。先の匿名発言一つを業界全体の姿に広げることもできない。
それでも、採用を止める側の理屈には厄介な説得力がある。新人に頼んでいた作業が減れば、短期の予算では人員を増やしにくい。以前は仕事を片づける過程で教えられたことも、これからは育成のために時間を取る必要がある。作業の対価に含まれていた教育費が、単独の費用として見えるようになる。
Gartnerは、AIの出力を評価する仕事などを早い段階から新人に任せ、経験者が判断の仕方を教えることを提案している。ただ、新人にいきなり評価を任せるだけでは難しい。何が不自然なのかを見抜く経験を、まだ持っていないからだ。
たとえば、AIがつくった広告案を先輩と一緒に直し、なぜその表現を落としたのかを説明してもらう。こうした時間を仕事として確保できるかどうかで、同じAIを入れた会社でも数年後の人材は変わるだろう。
目の前の仕事を少人数で回せる会社ほど、新人を採らない理由はそろう。かつて採用した若者が優秀な社員になったという経営者の記憶は、今の予算に載せにくい。その成功を次の世代でもつくるつもりがあるのか。採用を止める判断は、そこまで含んでいる。
SOURCESこの記事の情報源
- Digiday・匿名条件での経営者発言 ↗ — 報道・専門媒体
- Gartner・9月29日の発表 ↗ — 一次情報




